フランスに留学していた時の体験です。大学で語学専門コースをとっていたのですが、その中に非常に真面目な韓国人の男子学生がいました。話しているうちに気さくな性格とわかり、よく一緒に課題に取り組んだりしたものです。静かで穏やかな人柄でしたが、私がある時「そう言えば私はキムチが大好きで、日本ではよく食べていました。こちらではアジア食品店に行っても、なかなかこれというものに巡り合えなくて…。」と言うと、熱烈な表情でキムチについて語り始めたのです。
彼の家庭では、お母さんが毎年何壺ものキムチを仕込んでいるので、毎日の食卓に並ぶのは手作りキムチなのだそうです。キムチを買ったことが過去にない、と言われて私は絶句しました。日本人が過去に自宅で味噌を仕込んでいたように、その家庭の特色あるキムチができるということなのでしょう。
私は興味を抱いて、「そのレシピって教えてもらえませんか」と言うと、彼は首を振りました。なじみのある家庭料理ではあるけれど、お母さんは代々秘伝のレシピを守っているということで、門外不出なのだそうです。それもそうだな、と思いながらも私は感心していました。日本で購入したキムチしか知らない私にとって、きっと彼のお母さんのキムチは別物に感じられることでしょう。いつか、機会があれば韓国家庭の真の「家キムチ」を食べてみたいと、この一件以来密かに思い続けています。